ストーリー制作
2025/10/09
デザインストーリーとは
ストーリーは、時間経過による変化(出来事)を人間にとって理解可能な枠内に収まるように紡いだものといえる。そして、それらの出来事が読者の心を動かすようにつなげられているのが面白いストーリーである。
「読者の心を動かす」ために必要な条件は、まず読者がストーリーを理解できること、次に読者が共感できるようなドラマが描かれていること、そしてそのドラマがクライマックスに向けてどんどんエスカレートしていくことである。ドラマを描くとは、言い換えると人間の感情の機微を描くことである。登場人間の感情の機微を描くからこそ、読者は登場人物に共感にして感情を揺さぶられ、ストーリーを面白がることができる。どれだけ緻密なストーリーでも、ドラマが全くなく、事実を羅列しただけの文章であれば面白くもなんともない。
では、ドラマはいつ生まれるのだろうか。それは、ある登場人物がアクションを起こしたとき、世界(別の人物や環境など)が返すリアクションが予想(あるいは期待)と異なっていたときである。次に起こるだろうと予想したことと実際に得られた結果の間にギャップが全くなく、主人公が無双するだけのストーリーなどは、ドラマは生まれず読者は退屈してしまう。また、主人公の前に現れるギャップは次第に大きくなっていき、それに伴って主人公のアクションも徐々にエスカレートしていくように設計しなければならない。「筆箱を家に忘れた」、「課題を解いたノートを家に忘れた」、「学校に傘を忘れた」などと同程度の障害(ギャップ)を何度も設定しても、読者は単調な展開に飽きてしまい、やはり退屈してしまう。出現したギャップがすべて、ストーリーが終わるまでにうまく解消されるようにすると、読者はドラマによる感情の起伏とギャップの解消による満足感を味わえる。
ストーリー制作
ストーリー制作の本質は、登場人物の人生の出来事の中から、いくつかを選んで戦略的に配列し、読者の心を動かすようにつなぐことにある。ストーリーの中のすべての出来事は、そのストーリーのテーマを表現するための要素であり、何を省いて、何を含めるか、どんな順番で並べるかが極めて重要である。
前述の通り、「読者の心を動かす」ために必要な条件は、まず読者がストーリーを理解できること、次に読者が共感できるようなドラマが描かれていること、そしてそのドラマがクライマックスに向けてどんどんエスカレートしていくことである。そのため、ストーリー制作では、理解しやすいストーリー構造に基づいてドラマを描いていくことを意識すると良い。食事に例えると、ストーリー構造は器、ドラマは料理である。
ストーリー構造はストーリーライン、シーケンス、シーンから構成され、ドラマは各シーンで描かれることになる。シーン一つ一つにストーリーを左右する変化をドラマとして描いていくことで、面白いストーリーができあがる。
ストーリー制作の原則
一つのストーリーに一つのテーマ
一つのストーリーでは一つのテーマを表現する必要がある。テーマはそのストーリーで伝えたいメッセージを一言で明快に表した文章のことで、ストーリーの中のすべての出来事は一つのテーマを表現するように取捨選択されている必要がある。テーマが複数あると、どれも中途半端なメッセージになって読者の印象に残りにくくなる。
少ないほどよい
読者の知識と経験を低く見積もって過剰に情報を詰め込んではならない。最小限の情報を伝えれば、読者は十分な情報を補って理解してくれる。知らなければ読者が混乱しそうな情報のみを与えるようにする。
また、変化しないものや意図が重複するものは削除するべきだ。そのシーンの前後で何も変化しないならそのシーンは不要であり、同程度の質や規模のアクションが続くなら最初のアクション以外は不要である。また、同じリアクションを取る人物が複数いるのなら一人を除いて排除すべきである。
信憑性を築く
読者に何らかの感情を抱かせたいならストーリーを信じさせるしかない。そのストーリーが読者の理解を超えていたり、一貫性を欠いていると感じたりすれば、すぐさま読者とストーリーの間の絆は切れてしまう。
そのため、何も知らない読者がストーリーを自然に理解できるように出来事がつむがれていて、その世界の法則に従って起こり得ることのみが起こり、登場人物は(その人物の変化を描かない限りは)一貫した言動をとる必要がある。
共感を集める
読者の感情を動かしたいなら共感できるドラマが必要になる。各シーンで描かれていることが歴史上の事実の羅列にとどまっていれば、読者に共感する余地はなく、読者とストーリーの間の絆は切れてしまう。
シーン一つ一つでしっかりとドラマを描きつつ、読者が最後まで見てくれるように、すべてのシーンがクライマックスに向けた伏線となるようにする必要がある。伏線が謎を呼び、読者は最後までストーリーに付き合ってくれる。
ストーリーの基本構造
ある出来事(インサイティング・インシデント)によって、世界の均衡が(良い方あるいは悪い方に)大きく傾くと、均衡をとり戻したい(世界をもっと良くしたい、あるいはもとに戻したい)という欲求が(意識的であれ無意識的であれ)生じる。そして、敵対する力(障害)に抗って、欲求の対象を追い求める探求が始まる。達成できるかどうかはわからない。
「インサイティング・インシデント」はその後に起こるあらゆる出来事の発端となり、「段階的な障害」、「クライマックス」、「解決」を始動させる。これがストーリーの基本構造である。
「インサイティング・インシデント」はストーリーの「つかみ」であり、感情に訴えて、先の展開への疑問を呼び起こし、必須シーンのイメージを引き起こさなくてはならない。そのため、これらの効果が得られるようにするため、読者が主人公とその世界についてどの程度まで知る必要があるかを吟味して、ストーリーの序盤の適切なタイミングで「インサイティング・インシデント」を発生させる。発生のタイミングが早すぎれば混乱するし、遅すぎれば退屈する。「インサイティング・インシデント」の後は、次第にエスカレートする「段階的な障害」を乗り越えて「クライマックス」に至る。全てのシーンは「インサイティング・インシデント」から「クライマックス」に至る経緯を説明するように描いていく。最後の「解決」では、世界が均衡を取り戻していく様子を描いて、ストーリーを終結させる。
ストーリー制作の方法
ストーリー制作の方法をいかに示す。この順番は絶対的なものではなく、入れ替わったり、途中で戻ったりしても良い。
テーマはストーリーの伝えたいことを一言で表した旗印であり、ここを目指してストーリーは進んでいく。ストーリーの方向性を示すためのものなので、次に示すものくらいシンプルな方がよい。
世界の設定(時代、舞台、登場人物など)は、テーマを語るための屋台骨であり、すべてクライマックスで回収される伏線だといえる。特に登場人物は、ストーリーの中心であり、そのストーリー独特のドラマを生み出すので、登場人物をしっかり作り込めていなければ、どこかで見たことがあるような既存のストーリーの焼き直しになってしまう。ただし、登場人物もあくまでも象徴であり、現実の人物ではない。端役に深みをもたせすぎれば、読者はその端役がまた登場するのではないかと期待し、混乱してしまう可能性がある。役に合わせた深みを与え、ストーリーを語るために不要な複雑さは排除すべきである。
テーマを暗示するクライマックスを描いていく。例えば、テーマが「力を合わせれば強い敵にも勝てる」であれば、クライマックスは「自分たちより圧倒的に強い鬼を仲間と力を合わせて倒す」とすることが考えられる。
なお、読者はストーリー自体に興味があるのであり、テーマを聞きたいわけではない。テーマは作品に溶け込むようにして、読者がすぐには気づけないようにすべきである。読者が途中でテーマに気づけば、先の展開がわかってしまうかもしれないし、そもそも作品自体が説教臭いものになって興が冷めてしまう。
世界の均衡が傾き、その後の主人公を動かす欲求のきっかけとなるインサイティング・インシデントを描いていく。例えば、クライマックスが「自分たちより圧倒的に強い鬼を仲間と力を合わせて倒す」であれば、インサイティング・インシデントは「家族が鬼に襲われる」とすることが考えられる。
クライマックスを経て世界が均衡を取り戻していく様子を描いていく。例えば、クライマックスが「自分たちより圧倒的に強い鬼を仲間と力を合わせて倒す」であれば、解決は「仲間たちが喜ぶ様子と鬼がいなくなった後の平穏な世界」とすることが考えられる。
インサイティング・インシデントからクライマックスまでに主人公がぶつかる障害を設計し、主人公の葛藤を描いていく。
障害には事件(事件は登場人物に降りかかる災厄)、事実(ストーリーの中の決まり事)、事情(登場人物が背負っているもの)の3つがある。例えば、「鬼が襲ってくる」(事件)、「鬼の潜伏先が見つからない」(事実)、「主人公は体が弱く長く戦えない」(事情)などが障害となりうる。これらを組み合わせて、徐々に葛藤がエスカレートするように障害を設定する。
なお、ストーリーの軸がブレないようにインサイティング・インシデントからクライマックスまでつなぐために、テーマとアンチテーゼ(テーマの逆)に紐づくように障害を配置する必要がある。例えば、テーマが「力を合わせれば強い敵にも勝てる」であれば、アンチテーゼは「仲間と連携が取れず敵に負けてしまう」となる。「テーマとアンチテーゼに紐づくように」というのは、「力を合わせて弱い敵に勝つ」や「連携が取れず逃げて帰る」というように障害を利用してテーマやアンチテーゼを描くことによって達成される。
ストーリー構造はストーリーライン、シーケンス、シーンから構成される。そこで、ストーリーライン、シーケンス、シーンをそれぞれ埋めて、ストーリーの骨格を作っていく。ストーリーライン、シーケンス、シーンはそれぞれ以下を満たすようにする。
◯ストーリーラインの例
◯「家族が鬼に襲われる」配下のシーケンスの例
◯「家族が鬼に襲われているのを見るシーン」配下のシーンの例
シーンの目的は、登場人物の変化を描くことであり、シーンの始まりと終わりで変化のないシーンは必要のないシーンである。特にシーンの終わりは読者に強い印象を与えるので、「次に行動する人物のリアクションで終わる」など伏線になるようにして、続きが気になるように締めくくると良い。
シーンの肝は登場人物のアクション・リアクションにある。アクション・リアクションは登場人物の動作やセリフで表現し、そこには登場人物の個性が反映されている必要がある。人は障害にぶつかったときに個性が強く現れるので、シーンでも小さい障害を用意して、登場人物の個性を引き出すようにする。登場人物を入れ替えても違和感がないなら、登場人物が十分に掘り下げられていないか、そのシーンは特に重要ではないので削除した方が良い可能性がある。登場人物が十分に掘り下げられていない場合は、ストーリー全体とシーンのそれぞれのその人物の貫通行動を考えるところから始め、その貫通行動を得るに至った経緯を設定に追加していく。
アクション・リアクションをセリフで表現する場合、セリフも動作の一つであると考えると良い。動作と同様に、シーンに関係のないセリフは削除するべきだし、一つのセリフが一つの意図を伝えるようにするべきである。抽象度が高い情報でも自由に表現できるため、セリフに頼りすぎてしまうこともあるかもしれない。だが、すべてをセリフで表現してしまうとのっぺりした作品になってしまうので、なるべく映像で表現し、セリフを書かないようにした方が良い。また、「殴りたい」と思った瞬間に殴っている人物がほとんどいないように、本音をそのままセリフにしてはいけない。人間関係を意識しながら本音と建前を分けてセリフを考えることで、登場人物に厚みが生まれる。
なお、人間が具体的にイメージできるのは映像情報なので、シーンは映像思考で画になるかどうか考える。ドラマでは登場人物の感情の機微を描くが、それをリトマス法やシャレードなどをうまく使って映像として伝える必要がある。
