シュンペーターのイノベーション理論とイノベーションの源泉
2025/05/08
その他イノベーション理論の基本
イノベーションの定義
経済学者のシュンペーターはイノベーションを「新結合」 という概念で定義した。「新結合」とは、簡単に言うと「既存の知識・資源・技術を新しく組み合わせ、これまでになかった価値を生み出す」ことである。
5つのイノベーション類型
シュンペーターは「新結合」を次の5つに分類している。
類型 | 説明 | 例 |
① 新しい財貨 | まったく新しい製品、または品質が大幅に向上した製品 | iPhone |
② 新しい生産方法 | これまでにない製造技術や工程 | 3Dプリンターによる部品製造 |
③ 新しい販路 | 既存企業が手を伸ばしていなかった市場 | Netflixによるオンラインストリーミングの全世界同時サービス展開 |
④ 新しい供給源 | 原材料や部品を調達する新しいルート | 廃プラスチックを再生利用 |
⑤ 新しい組織形態 | ビジネスモデルや業界構造を再編 | Uberのライドシェアモデル |
主役は「企業家」と「お金の作り方」
「創造的破壊」とは?
イノベーションにより旧来のものが駆逐されていくプロセスのこと。NetflixがDVDレンタル店を駆逐していくような現象を指す。「破壊さえすれば新産業が興る」というのは明らかな誤用。
競争すればイノベーションが起こる?
ときおり、競争さえすれば生産性が向上するとか、イノベーションが起こるといった雑な議論を耳にすることがある。
しかし、競争には競争回避効果(イノベーションにより競争から抜け出すインセンティブが強まる効果)とシュンペーター効果(イノベーション後の期待利潤が圧縮されて研究開発投資意欲を削ぐ効果)の相反する2つの効果があり、一般に競争とイノベーションは逆U字型の関係になる。もちろん、競争とイノベーションとの関係はその産業の特性によって異なり、首位と次位の技術的距離が大きい市場では、競争回避効果があまり働かず、競争が激化するほどイノベーションが起こりにくくなるということもありうる。熾烈な競争が起こって全体的に利益が減少している産業ではなく、ある程度寡占的で緩やかな競争が起こっている産業でこそ、イノベーションは起こりやすくなる。
重要なのは、「ただ漠然と競争させる」ことではなく、供給が不足する分野では参入・投資を促進し、過剰な分野では退出・再配置を円滑化することである。
イノベーションの5つの源泉
イノベーションの源泉(イノベーションが起こるための必要条件)には以下の5つがある。
源泉 | 役割 | 説明 | 身近なイメージ |
① 資金 | プロジェクトを動かす「燃料」 | そもそも投じることのできる資金がないと人も設備も動かせず、イノベーションは起こりえない。 | 銀行の融資、ベンチャーキャピタルの出資、クラウドファンディング |
② 知識・資源・技術 | 組み合わせる「素材」 | 組み合わせるモノがなければイノベーションは起こりえない。 | 生成 AI、サブスクモデル、5G |
③ 組織能力 | 実行チームのスキルと仕組み | 組み合わせるための実行能力がなければイノベーションは起こりえない。 | 大企業の研究所、スタートアップ文化、社内起業制度 |
④ 市場の需要 | 「欲しい!」と思うユーザー | イノベーションによって生み出されるものはまったく新しいモノなので、最初は需要も存在しない。新しい需要が生まれて始めてイノベーションたりうる。 | 早期アーリーアダプター、βテスター |
⑤ 戦略的管理・資金調達コミットメント | リスクを取れる環境、長期にわたって累積的に学習できる環境 | 既存のモノを新しく組み合わせたからと言ってイノベーションになるかは不確実である。リスクを取れる環境と長期にわたって累積的に学習できる環境が必要。 | Googleの20%ルール、終身雇用 |
イノベーションを起こすのは誰か?
政府や大企業のように、不景気になっても潰れず、お金と人員を継続的に投下し続けられる大きな組織でこそイノベーションが起こりやすい。優れた技術を持つスタートアップ企業もあるが、大企業やベンチャーキャピタルから出資を受けていたり、大企業で培った技術を使っていたりして、イノベーションの5つの源泉を満たしている。